※DSゲームネタを含みます。
「おまえは前に出てくるんじゃねえぞ」
そう言い捨てるや敵陣へ飛び込んでいくベルフェゴールの背中をフランは見つめていた。
暗い戦場で一際目立って見える隊服の黄色のラインが、黒い人だかりを散らしていく。
もう見飽きた光景だ。フランはベルフェゴールに届かないと分かっていながらも、大げさに溜息をついて見せた。
センパイとの任務はいつもこうだ。勝手に殺したいだけ殺して、後始末やら報告書といった面倒な仕事だけをミーに押し付けて。
(王子じゃなくて暴君ですよ、ほんとー)
少し前の任務で、フランが標的に狙いを定めたところでベルフェゴールに割って入られた。
それより前の任務では、フランが標的を前にしたときは後ろからナイフを投げられ、振り返る前にベルフェゴールは標的に止めを刺していた。
本気で戦いたい、というのがフランの正直な気持ちだ。
そもそも、仮にもヴァリアーにはスカウトされた身である。能力的に問題があるわけではないだろう。
しかしベルフェゴールと共に任務に就くと、確実に戦わせてもらえない。
それが、かなり悔しい。
元々、人殺しに力を使うことに抵抗はあまりない。と言うより、力を使う理由なんてどうだっていい。
だが暗殺部隊の幹部クラスがデスクワークしか仕事がないという現状はいかがなものだろうか。
(ミー、やってやれないことなんて無いんですよー?)
思いを巡らせれば巡らせるほど腹が立ってきた。
文句を言われるのも嫌だがこのまま黙って見ているだけというのも納得いかない。
ベルフェゴールが蹴散らしていく黒い塊はすっかりまばらで小さいものになっていた。
このくらいの数なら一発でいける。フランの淡い緑色をした瞳の奥に藍色が灯った。
「……霧、ときどきカエルー」
嬉々として人を殺すベルフェゴールには到底届かないであろう小さな声で呟く。
そうして空から降り注ぐ、藍色の炎を纏ったカエルたち。
フランはベルフェゴールもあわよくば攻撃できたらと考えていたが、気配に気付いたベルフェゴールはそれをひらりとかわした。
全く気に食わない人ですー、と胸の中だけに収めた不満の代わりに舌打ちをひとつ零す。
そうして凝った首をほぐすように見回す。
深夜の静けさを取り戻した辺りは不気味と表現できるほどに沈黙し、人の気配は目の前のベルフェゴール以外には感じられない。
これ以上ここに留まる理由もないだろう。任務の終了を告げようとベルフェゴールの背後を取った。
瞬間、勢いよく振り向いたベルフェゴールの腕の中へ引き込まれる。
「ちょ……っと、センパイ、あの、」
「……怪我」
「はい?」
「怪我とか、してねえ?」
言いながら、ベルフェゴールはフランの体をぺたぺたと触りながら確かめる。
それがくすぐったくて仕方がなかった。ベルフェゴールの手つきも、優しく問いかけた声色も。
周りから窘められるくらいの関係がミー達には丁度いいのかもしれない、と思いながらフランは身をよじらせる。
「大丈夫、ですって……ちょっと、ミーの話聞いてます?」
「ん」
「もー……、センパイ、まるでミーのことめちゃめちゃ大事みたいじゃないですかー」
「ん? そうだけど」
「……え?」
「フランが好きで、大事で、傷付けさせたくないの」
普段働かせてもらえないことへの憂さ晴らしに、ちょっと困らせてみたいと思っただけだったのに。
真面目な声色でひどい口説き文句を吐かれて、聞いてるこっちが恥ずかしくなってしまう。
フランは自分の頬に熱が集中していくのを感じながら、ゆっくりと瞳を閉じてベルフェゴールに体を預けた。
「……何から何まで恥ずかしい人ですねー、センパイって」
「なに? 惚れ直した?」
「寝言は寝て言ってくださーい」
冗談じゃないとは思うけれど。甘やかされるのは嫌いじゃない。
フランがベルフェゴールの肩に額を擦り寄せると、抱きしめる腕の強さが一層増したので、苦しいですと喘いでみせた。