※R18程度の性描写を含みます。そして暗めのお話です。



最初に誘ったのははたしてどちらだったか、もう覚えていない。
どうでもいいことだ、この瞬間がいつまででも続くなら。
そう思う半面で、やはりどこかで心が痛む。
「心が得られないなら体だけでも」……まったく、よく言ったものだ。
体だけ得てどうなると言うのか。心を得られるまで渇きを抱え、潤う一瞬のためだけに体を重ね続けて。
安息の地など、この世のどこにもない。

この人はミーに違う人を重ねて抱いてるんですよー、最低ですよねー。
なんて、誰にも言えないけれど。胸の内で悪態をつくぐらい許されるだろう。

(……それにしたって、ひどい顔ですー)

いつだって、フランを抱くベルフェゴールは痛々しい表情をしていた。ちくりと刺す棘の痛みに耐えるような顔。
その理由は分かっている。
それはおそらく、どんなに荒々しくフランを押し倒した後であっても、頭に被ったカエルを外す手つきだけは優しいのと同じ理由だ。

(そんな顔をするくらいなら、)
「……愛そうとしなくていーんですよー」

そう言ってからフランははっとした。以前から思っていたことではあったが、彼に告げるつもりは毛頭無かったからだ。
前髪が激しく乱れたベルフェゴールが顔を上げる。
まあ、いいか。どうせミーたちグダグダだし。言っちゃったほうが楽になるかもしれませんしー。

「ベルセンパイは、ミーを愛そうとしてくれてるでしょー?」
「……」

ベルフェゴールは何も言わなかった。図星のようだった。
そんな様子に付き合う気もないフランが言葉を続ける。

「気持ちは嬉しいですけどー、そういうの要りませんよー。だって、別にミーはセンパイのこと、」


愛してませんから。


ずっと溜めこんでいた言葉は鉛のように重く、胸の一番深いところまですっと落ちていく。
やっぱり真面目な話をするのは苦手だ。こんな風に、言葉一つで揺さぶられる感覚は好きじゃない。それが自分が口にした言葉なら尚更だ。
沈黙していたベルフェゴールは、僅かに目を見開いたところからみて、少なからず驚いたのだろう。
それから溜息をひとつつきながらゆっくりと瞬きをする。

「……そうだな、そーゆーの、俺らには向いてなさそうだ」
「でしょー? 早く続き、しましょー」

ねだるようにベルフェゴールの胸を這うフランの指先に、くすぐったいと苦笑いして、掴んだフランの手首にキスを落とす。
だから、そういうのが要らないんですって。わかってないですねー。
そうは思っても、やはりベルフェゴールに言えなかった。
惨めなことに、優しくされるのは気持ちがよかったからだ。それが前にベルフェゴールが抱いていた人にしていたものと同じだと、分かっていても。

「じゃあ、いれっぞ」
「どーぞ……ん、あっ」

もう抱かれた数は両手の指の数を超えたのに、挿入の感覚だけはどうしても慣れない。
けれどそれも一瞬。不快に眉をひそめる前に熱と快感に溶かされる。
あとはただ喘がされるだけ。じわりと滲んだ涙で視界が歪んだ。

「は、……っ、アツ…」
「あっついのは、ああっ、センパイもですー、ん!」

本当に不毛な関係だと、思わないわけではない。
最初はもしかしたら、寂しいセンパイの心を埋めてやっている気でいたのかもしれない。
でも、気付いたら離れられなくなっていた。
自分のことを思っていないキスは、残酷なくらい優しくて気持ちよかった。
こんなに自分が欲している人に愛されている誰かに、嫉妬しているのは確かだけれど。

がつがつと激しく求められるたび、そんなことを思い出すのは走馬燈のようなものなのだろうか。
もしここで死ねたら。どこか知らない地で任務中に死ぬよりは、ずっと本望だろうし、情けなく彼に縋りついている自分にはお似合いだ。
腹上死。ああ、なんてあさましい響き。

不意に自分の中でベルフェゴールの性器が跳ねるのを感じた。
イきそうなんですか、と尋ねたフランにベルフェゴールは頷く前に腰を引こうとする。
(……だめ、)
そう思ったのが早いか、フランはベルフェゴールの腰に足を絡ませた。
そしてベルフェゴール背中に回した腕に残ったすべての力でしがみつく。

死んだ相手への嫉妬なんて馬鹿げてるけど、思い出相手じゃ勝ち目がないから。
せめて、今この瞬間が本当に存在している証が欲しい。

「センパ、なかっ、なかにだし、てぇ……」
「ちょ、おまえ、……っああ…!」
「は、ん……っああ!…でてます、せーえき……」

逃げ場を失ったベルフェゴールはフランの中に精を放ち、その熱を感じたフランがそれからすぐに達した。
残された、二人分の荒い息遣いと皺だらけのシーツ。

「……どこで覚えてきたんだよ」
「えー、何がですかー?」
「中に出せ、ってやつ」
「なんかそんな雰囲気だったじゃないですかー、ミーからのサービス、ですよー」
「おまえなあ……とにかく、ああいうのは次から要らねえ。中に出されて困るのはおまえだろ」

中出しなんてされたの、今日が初めてだったんですけどねー。
誰がセンパイに”中に出されると困る”なんて言ったんですかー。
そんなこと言ったらまたあの顔をするのだろうか。
もうこの世にはいないあの人を勝手に思い浮かべて、勝手にミーと重ねて、勝手に自己嫌悪して。
救いようのない人だ、ベルセンパイは。
でも本当に救いようのないのは、まだこの関係を続ける気のあるとも取れる台詞に浮かれてしまっている自分自身だということは、嫌というほどわかっている。

「ねえベルセンパイ」
「ん?」


センパイ、ベルセンパイ。ミーが今日言ったこと、もし一つだけ嘘があるとしたら。
センパイは、どれを嘘だと思ってくれますか。



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Acid Black Cherryの曲をイメージして書きました。タイトルは曲名から。