eyes



たとえば、ほんの一瞬。

この人の瞳が好きだと気付いたのはいつだったか。
任務中に鋭い彼の視線を向けられる相手に、羨望の思いを抱いた数は計りきれない。
普段から憎まれ口を叩き合う間柄ではあるけれど、あんな瞳をフランが向けられることは無かった。
人を殺すことへの愉悦が含まれた色。
普段は前髪で隠れている瞳にその色が灯るときが彼が本気になった合図だ。
同じ任務をこなす間、何度も離れた場所から目にしたはずなのに、その度に視線を外すことが出来なくなった。
すべてを奪い、壊そうとする色。訳も分からないまま惹かれる色。
もしもこの人に恋に落ちた瞬間が存在するとするなら、それはきっと、あの瞳を初めて目の当たりにしたときなのだろう。
あの瞳で見つめられたらどんな気分なのだろう。
実際そんな機会があったら自分も無事では済まないだろうから、別に見つめてくれなくてもいいけれど。


たとえば、長い時間。

初めて会ったときから、その瞳の奥だけを見つめてきた。
透き通るような淡い緑は思うよりもずっと深かったらしい。
ただ、その奥に何があるのかが知りたかっただけなのに、いつの間にかどうしようもないほどに囚われていた。
相変わらず、術師と相性が良いんだか、悪いんだか。
自嘲気味の呟きは胸の中だけに留めておいて、隣でカエルのようにしゃがみこんだフランへ手を伸ばした。
触れられるほど近くにいるのに、触れられないような気がしていた。
指先に触れる髪の毛は、瞳と同じエメラルド。フランの眉がぴくりと動いた。
「なんなんですかーいきなり」
「いや、なんとなく?」
どうしたらこの瞳は違う色に染まるのだろう。
この手でお前の全てを手に入れてみたいんだ、たとえ淡い緑に深みを与える霧の色に惑わされているだけだとしても。



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ベルの瞳の色を考えるだけで楽しいです。