※R15程度のぬるい性描写があります。
今日はやけにしつこいな。
手の中にある本の文字列から目を離すことなく、フランは胸の中で呟いた。
先程からベルフェゴールからの嫌がらせ(彼はそれをスキンシップだと言い張っている)がエスカレートしているような気がする。
その一因にフランがまるで反応を示さないこともあることは、百歩譲って認めてやってもいい。
しかし、なぜ自室で本を読んでいただけのはずのフランの首元にベルフェゴールが顔を埋めているのだろう。
さすがに読書に集中できない。
「ベルセンパーイ、いい加減ウザいんですけどー」
「王子を暇にするお前が悪い」
「ホント、二言目には王子王子って…全然進歩しませんねー」
「うるせえ、よ」
ベルフェゴールの犬歯が白い首筋に食い込む。
それまで反応を見せなかったフランが初めて小さくあ、と声を上げた。
敏く聞きつけたベルフェゴールの口元が歪んだのを見て、フランが困ったように眉を下げる。
「ああもう、痛いじゃないですかー」
「ちゃんと痛がれっつーの」
「うわー痛い痛いー」
「血は出てねえし、いいだろ別に」
「よくないですー」
「でも跡にはなったな」
「人の話聞いてます―? ……ひあ、」
歯形の通りに窪みができた首筋に舌をねっとりと這わせる。
気を抜いていたばかりに嬌声に似た声をあげてしまったフラン。してやったりと言わんばかりに表情が緩むベルフェゴール。
「ししっ、お前って不感症ではないみたいだな」
「セクハラで訴えますよー」
「どうしたら感じんの? ちゃんと教えろよ」
「せんぱ、やめ、」
迷惑極まりないことに、どうやらベルフェゴールに火が付いてしまったらしい。
思わずフランは読みかけの本を閉じた。
栞を挟み忘れたことに気付いたのははそれからすぐのことで、軽くパニックを起こしている頭の片隅でどうしようもないな、と思った。
ベルフェゴールはというと、どうしたらこの無表情のカエルが新たな一面を見せてくれるのか、それだけに興味をそそられていた。
「ここ、跡になってるとこ、……こうやって舐められるのと」
「……っは、う…っ」
「こう……吸われるの、どっちがキモチイイ?」
「ひ、……っん」
「あ、やっぱ歯、立てられるのがイイ?」
「っく……ふぁ」
ただ喘がされる。
おそらく、フランが幻術を使えば難なく逃れられるだろう。
それでも熱に浮かされるほうを選んでしまったのは、それなりに惚れた弱みを感じているからで。
一番どうしようもないのは自分じゃないか、とフランが瞼を閉じた、その時。
「あー……フラン食ってたらほんとに腹減ってきた」
不意にベルフェゴールが顔を上げ、フランの耳たぶに軽いキスを一つだけ落とす。
肩を揺らしたフランが慌ててベルフェゴールの姿を追うが、肝心の“王子様”は既に部屋の扉に手をかけている。
「ルッスーリアに何かもらってくるわ、じゃーね」
放心しているフランに手を振って見せて、ベルフェゴールはさっさと部屋から出て行ってしまう。
後に一人残されたフランの胸の内には、それはもうバリエーション豊かな毒舌が湧いてくるのだが。
「……ばか…」
首元も頬も赤く染まった自分の体を幻術で取り繕うような体力もないフランにとって、力なく呟くことが限界だった。
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ベルは犬っぽい!と思って書き始めたのですが、後から見直すと猫っぽくなってました…