(お題 ラストコール 相槌 帰り道)



その日、普段と違うことがあったとすれば、一つ大きな仕事が片付いた、ただそれだけのことだったはずだ。
しばらく働きづめだったのだから、これで大分休みがもらえるだろう。
久し振りの休みだ、買ったままの姿で積み上げられた本を崩していくのもいいだろうし、部屋の片づけもしたい。
ただゆっくり眠るのだっていいだろう。やりたいことは山ほどある。

それなのにどうしてだろう。何か大事なことがあるような気がする。

「ベルセンパーイ、もう任務は終わったんですから、その趣味の悪いナイフしまってくださいよー」
「あん? そんなに刺されたいワケ」
「やめてくださーい」

アジトの城へ二人で帰る。ここ何日も同じことを繰り返していた。もはや日常だった。
いつもと同じように憎まれ口を叩いて、言い合いを繰り返すうちにナイフが飛んできて。
日常だと思っていたのだ。昨日から今日にかけての変化が無かったように、今日から明日にかけての変化が無いことを信じていた。

「ねえベルセンパイ、」
「なんだよ、フラン」

このときは確かに信じていたのだ。日常なんて壊れやすいものであると、幻術を使う自分が知らないはずもないのに。
だからきっと、こんなことを話してしまうのは単なる話題作り。

「ミーはベルセンパイのこと好きですよ」
「……どうした? 熱でもあんのか?」
「少なくとも、ベルセンパイがミーのこと好きなぐらいには、好きです」
「無視かよ……」

不安になったわけじゃない、と何度も自分に言い聞かせた。
痛みじゃない理由でこぼれそうになった涙を眉をひそめてこらえる。

「ベルセンパイ」
「……なんだよ」

自分が最後に名前を呼んだ人はあなたなのだろう。
それだけで、今はいい。

「はやくいきましょう? またアホのロン毛隊長に怒鳴られるのは嫌ですから―」
「勝手に仕切んなっ」

いつの間にか夜が明けていた。朝日がやけに眩しかった。



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もし未来が変わってしまうとして、それにフランが気付いていたとしてという話。
お題はこちらのサイトからお借りしました。ありがとうございます!
傾いだ空