毒づきガエルの憂鬱(お題:初恋 疑問符)



「これは割と考えてることなんですけどー」

普段と同じ気だるい口調で語り始めたフランの隣で、ベルフェゴールはなんだよ、と憎まれ口に似た相槌を打ちながら振り返る。
淡い緑色をしたフランの瞳はちらりとベルフェゴールを見やっただけで、すぐに視線は正面へと戻された。

「一応センパイはミーの恋人ってことになるじゃないですかー」
「ししっ、そうだな」
「でも正直ー、失敗したなって思うんですー」
「どういう意味だよ」
「だってセンパイって、ほら、ねえ…?」
「こういうときだけ言葉濁してんじゃねえよ、投げるぞ」
「やめてくださいよー」

ベルフェゴールがおもむろにナイフを手に取ると、フランが形だけの牽制をしてみせた。相変わらずの無表情ではあるが。
一つ舌打ちをしてベルフェゴールがナイフをしまったのを確認してから、フランが再び話し始める。

「こーんな堕王子が初恋の人でいいのかなって思ったりもするんですよー」
「堕王子言うな!……え、なに、初恋?」

ここまで聞いて初めてベルフェゴールはたじろいだ。
確かに隣で毒を吐くカエルは何を考えてるか分からないし、そもそも恋愛なんかに興味があるようにも見えないけれど。
改めて初恋だと聞かされると……体が強張っていくのをベルフェゴールは感じている。

「そうなりますねー」
「……マジで?」
「なぜかミーの周りって変な人多いんですよ、そういう対象の人はいなかったものでー」

まあセンパイも十分変だから悩んでるんですけど、なんて付け加えて呟いたフランの声はベルフェゴールには届かなかったらしい。
言い返さず黙り込んだベルフェゴールの顔をフランが覗き込んだ。

「……センパイ?」
「あの、なんつか、その、あれだ」
「はっきり喋れよ堕王子」

手繰り寄せるようにしてフランの手を握った。
人形みたいな顔立ちしている割に、フランの手は暖かかった。

「責任、とってやろうか」

ベルフェゴールの表情は口元からしか窺えないけれど、茶化すような声色が含まれていないことにすぐ気がついた。
フランの瞳が一瞬だけ大きく見開かれ、それから瞼が下りる。
そうしてフランは、少しではあるけれどとても満足気に微笑んだ。

「できるもんならやってみろですー」
「……ほんっと、カワイクないコーハイ」



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傾いだ空